五反田(差)篇(後編)



ドアを開けると、かわいい女の子が立っていた。とにかく「かわいい」と感じられる女の子だったことで安心した。

ー」

僕と女の子の声がハモった。・・・一瞬間を置いて、ふたりともくすっと笑ってしまった。

「あ、そういえばもう、夜だよね」
「うん、もう暗いし、『こんにちは』って時間じゃないと思う」

女の子、Kちゃんは靴を脱いで上がってきた。もちろんドアを閉めるときに鍵はかけている。僕はテーブルの上に置いた文庫本をジャケットに仕舞おうとした。

「あ、なに読んでたの?」
「伊坂幸太郎って作家の小説なんだけど。知ってる?」
「うん、『重力ピエロ』は読んだよ。面白かった。読んだ?」

あれ? と思った。本を読んでいる最中に部屋に入ってきたふーぞく嬢はなん人かいたけど、その内容について質問し、しかも「読んだ」と答えた女の子に、たぶん僕ははじめて出会った。

僕はKちゃんに、伊坂幸太郎の作品を読むのは『グラスホッパー』に次いで二冊めであること、だから『重力ピエロ』は読んでいないことを説明した。Kちゃんも読んだのは『重力ピエロ』だけだったらしい。

でも、はなしはそこで終わらなかった。Kちゃんは本屋にいくとつい大量に本を買ってしまうこと(僕と同じだ)、そして買ったはいいけどなかなか読む時間が取れないこと(これも僕と同じだ)、とかいうことを喋った。

「なんで買っちゃうのかなあ、っていつも思うんだよね」
「いや、でも、それ正しいよ。だっていま、出版不況っていうじゃない」
「なんか、そういわれてるよね」
「もし眼の前にすごく面白い本があっても、次にまだあるかわからない」
「そうだよね、本って、一期一会だよね」

そこから、DVDも買ってしまうけど観る時間が取れないの、なんでTVで観たのに買っちゃうのかな。でも俺もドラマで観てDVD買っちゃったのがあるよ、長瀬が出てた『ビッグマネー』っていう。ああ、あれ原作があるんだよね。そう、石田衣良。

会話が楽しかった。Kちゃんが若くてかわいい女の子だから、だけではない。ふだん全然TVを観なくて、若い女の子とどんな会話をすればいいのかわからない僕と、Kちゃんはちゃんとはなしを合わせられる。しかも、見た目、無理せずに。

会話の内容自体はあまり意味のないものだったので全体は省くが、以下の会話だけは外せないので、書いておこうと思う。

「キティちゃんのお父さんって、“ダニエル”っていうんだよ」
「え? お父さんって、同じ顔して眼鏡とヒゲのあるひとだっけ?」
「うん。あれ? ボーイフレンドだったかな?」

さて、さすがにKちゃんはプロだった。とりとめのない会話がふと途切れた瞬間、「ねえ、この服、下になにも着てないとえっちだと思わない?」と、着ていたシースルーの、カーディガンというのか、を指差した。僕がKちゃんのその姿を想像して頷くと、

「じゃ、脱いじゃおっか」

下に着ていたTシャツを脱いで、ブラジャーの上からカーディガンを羽織った。えっちだね、というと、じゃあ、と今度はスカートを脱いだ。シースルーの下に、下着。なんとなくどきどきしてくる。

Kちゃんは、次に下着を脱いだ。陰毛がシースルーに見え隠れする。じゃ、最後はブラね。Kちゃんはそういって、僕に背中を向けた。はずして。とにっこりと微笑む。どきどきした。慎重にホックを外す。ぷつん、と布が緩んだ。

露わになったKちゃんの胸を見て、僕はKちゃんを選んで本当によかった、と思った。プロフィールに書かれていたKちゃんのサイズは83cm。僕のいちばん好きな、小ぶりで手のひらサイズのおっぱいだった。

「じゃあー、あなたも脱いで」

Kちゃんにいわれて、ヘインズのTシャツを脱ぐ。ジーンズを脱ごうとするとKちゃんが脱がせてあげる、といってくれたが、リーヴァイスのスリムなので脱がせてもらうほうがやりにくいといって、自分で脱いだ。

一緒に歯を磨いて、バスルームに入る。髪の毛を後ろで束ねたKちゃんは、ちょっと幼い感じに見えて、かわいさが増す。一緒に浴槽に漬かって、かわいいなあ、と呟く。Kちゃんはちょこちょこっと息子にちょっかいを出してくる。

ちなみに、最初に「俺、えっちなことするのがすごく久しぶりだから、反応が鈍くても気にしないでね」と断っておいた。実際、昔はこんな好みのおっぱいを眼の前にしたらそれだけで臨戦態勢になったものだが、どうも息子の反応が鈍い。

からだを洗ってもらって、部屋に戻る。そうだ忘れるとこだった、とKちゃんがバッグから「七つ道具」を出す。ローション、イソジン、少し小ぶりのローションみたいな瓶(なにに使うかは最後まで不明だった)、タイマー。

「七つ道具って、よっつしかないじゃん」
「あー、ホントだ。これじゃ“よっつ道具”だよね」
「じゃ、いつつめ」

Kちゃんを指差す。にこっと微笑って、Kちゃんは「じゃ、これがむっつめだー」と、えっちなヴィデオが観られるという大画面液晶TVを指差した。「で、ななつめ」と僕を指差すので、「じゃあ俺、いつもいなきゃならないじゃん」というと笑った。

ふたりでベッドの上に乗る。

「えーと、どうしよう?」
「どうしたい?」
「じゃあ、キスしていい?」

いいよ、とKちゃんがいったので、僕は上からKちゃんに唇を重ねた。舌でKちゃんの唇をこじ開ける。抵抗はなかった。Kちゃんの舌が僕の舌に絡まる。やっぱりディープキスは気持ちいい。

現金なことに、息子が硬度を増していた。そこに触ったKちゃんは嬉しそうに、

「あー、ダニエル君元気になってきたあ」

これなら大丈夫、とKちゃんは息子を口にする。が、またまた現金なことにディープキスの感触が薄まると硬度がなくなる。うー、せっかくKちゃんがなめてくれているのに。

で、交代させて、とKちゃんの上になる。かわいいおっぱいをさわさわ、と触る。Kちゃんは「生理前だからかな、びんかんになってる」といいながら、ちゃんと反応してくれる(それが本当かどうかはわからないけど)。

けっこう長いことおっぱいを触っていたが、Kちゃんにそろそろ別のとこにしよう、といわれる。じゃあ脇の下、というとくすぐったいからNG。じゃあおなか、というとくすぐったいからNG。

「じゃあ、もうキティちゃんしかないじゃん」
「うん。キティちゃん、さわって」

Kちゃんの陰毛はわりと濃いほうだと思うが、土手の部分に集中していて、本体はほとんど無毛だった。だから、そこはすごくかわいらしく思えた。クリトリスをぺろっと舐める。Kちゃんがひゃんっ、と反応する。

クリトリスをちろちろ、と舐めては性器に舌を入れたり、性器からクリトリスまでつつー、と舐めたり。Kちゃんは結構ちゃんと反応してくれる(それが本当かどうかはわからないけど)。

たしか指入れはOKだった筈だけど、なんとなくKちゃんにそういうことはしたくない気分だった。代わりに、

「こっちの穴、舐めてもいい?」

と、Kちゃんのお尻の穴を指で軽く触れた。いいよ、といわれたので、お尻の穴に舌を伸ばす。嫌がったらやめるつもりで、少しずつお尻の穴に舌を侵入させてみたが、Kちゃんは拒否しなかった。

本当に現金なことだが、息子がエネルギー充填100%の状態になった。Kちゃんに、69してもらっていいかな、と訊くと、いいよ、というので上になってもらった。ふたたび息子がKちゃんの口のなかに含まれる。

下になった僕はKちゃんのお尻の穴に舌を入れ、僕の唾液でゆるゆるになったところで、ひとさし指でお尻の穴を刺激しながらクリトリスを舐める、という行為を繰り返した。

僕の指は、少しだけど間違いなくKちゃんのお尻の穴に入っていたが、Kちゃんに嫌がる様子はなかった。Kちゃんは、もしかするとAFの経験があるのかもしれない。僕は性器よりお尻の穴が好きな変態なので、これはもう精神的にものすごく気持ちいい状態。

そうするとまたまた現金なことに、Kちゃんに愛撫されている息子がすぐにエネルギー充填115%になってしまい、なん度かKちゃんに「ちょ、やばい、イっちゃうよ」と声をかけて、愛撫を中断してもらわなければならなかった。

ちなみに店のシステムとしては「時間内無制限発射」なのだが、おそらく一度出してしまったら二回めは無理だと思っていた。その一度を大切にしなくては。・・・なん度めかの愛撫を中断したKちゃんがいった。

「じゃあ、次はどうする?」
「えーと、じゃあ、素股とか?」

Kちゃんはななつ道具のうちのローションを僕の息子と自分の股間に塗り、僕の上に跨った。女性上位の体勢で腰を動かす。き、気持ちいい。上気したKちゃんの顔を見ながら、僕はKちゃんのクリトリスをおや指でさする。

あっという間にエネルギーの充填度が高まり、僕はまたKちゃんに途中で動きを止めてもらった。と、Kちゃんが僕から離れる。

「どうしたの?」
「ううん、ちょっと姿勢を変えるだけー」

Kちゃんは後ろ向きで僕の上に乗った。今度はお尻の割れ目で息子を挟んで腰を動かす。つまりKちゃんのお尻の穴で擦られているわけで、なぜかさっきよりも締め付けがきつく、しかもある意味疑似AF。再度あっという間に充填度が高まる。

Kちゃんが姿勢を変えたのはなんでだろう。僕がお尻の穴が好きなのを感じ取ったからか、自分がお尻の穴で擦られるのが気持ちいいからか、性器で擦ってクリトリスを触られていると動きが鈍るからか。

今度は、我慢できなかった。Kちゃんも容赦する気がなさそうだった。いくよ、とKちゃんに伝え、僕はKちゃんのお尻に挟まれたまま、少しだけ自分で動いて射精した。

Kちゃんは、射精のあと一度からだを離し、今度は手で息子を覆った。だんだん硬度を失ってゆく息子を擦りながら、まだ出るかな? まだ気持ちいい? と、優しく訊いてくれた。

Kちゃんは「もういっかい、いけるかな?」と訊いてくれたが、僕は首を振った。一回だけでも充分に満足していたし、時間内でもう一度できる自信もなかった。肉体的にも精神的(緊張の連続だったし)にも、疲れてもいた。

僕とKちゃんは、ベッドのなかで時間まではなしをした。その間、Kちゃんはずっと僕の右手を自分の股間に挟み、僕のからだをさすってくれていた。時間がきて、シャワーを浴び、服を着た。

ふたりで靴を履いて部屋を出るとき、ドアを開けようとすると、Kちゃんは「まって」といって、「んー」と、手を拡げて抱きついてきた。きゅっと抱きしめた。

エレヴェイタに乗って、ラヴホテルを出たところで「ばいばい」とお互いに手を振って別れた。

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さて、“前編”で、

> Kだと90分コースは24Kなのだが、Oだと95分コースが31K。
> その違いはなんなんだろう

と書いたのだが、こうやってKちゃんと過ごした時間を改めて振り返ってみて、参考のためにKとOのウェブサイトを見直してみるとよくわかる。

在籍している女の子の平均年齢は、KよりもOのほうが若干高め(もちろん、ふーぞく店のプロフィールなんてある意味アテにならないが)。でも、齢が若いからいいというわけではない(僕はいままでそう思っていたが)ということだ。

ものすごく長くなってしまうから、Kちゃんとの会話ややりとりの内容をすべて書くわけにはゆかない。でも、Kちゃんを顔やからだだけではなく「かわいい」と感じたことは、一緒にいた時間のなかで、数え切れないくらいあった。

そして、僕の文章が拙いせいでうまく伝わっていないかもしれないが、僕は最初ものすごく緊張していたにも関わらず、ラヴホテルを出たあとにはKちゃんのおかげですごく癒された気分になっていた。

毎度書いているけど、僕の貌がKちゃんの好みだったとは思わないし、僕の会話がKちゃんの趣味に合ったとは思わないし、僕のテクニックが上手いとは思えない。だから、Kちゃんが出会ったお客さんすべてに僕のように接しているのなら、すごいと思う。

よほど気の合わない相手ではない限り、ほとんどのお客さんは僕のように、下半身がすっきりしただけではなく、精神的に癒された気持ちで家に帰ってゆくだろう。これは、若いだけの女の子ではできないと思う。

そして、もしOに在籍している女の子が、みんなKちゃんみたいにお客さんに接しているのなら、値段の差の理由ははっきりしている。そして、それは払うに値すべき差だと思う。

だから、あのとき、Kの女の子に都合がつかず、Kちゃんに会えたことはものすごくラッキィだったのかもしれない。・・・でも、こんなふうに感じるのも、僕が完全におやぢモードに移行してしまったからなのかもしれないな。


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