Mさんで満足したにも関わらず、それから二か月も経つと、
僕はまた飢えはじめた。
まあ、あたり前か。
ちょうどまた仕事が少し忙しくなって、
5月下旬から7月いっぱいくらいまで朝10時から夜は最低20時、休みは二週に一度日曜日のみ、
という日々が続いたせいもある。 でも、くどいようだが、 当時の僕はふーぞくに関する知識がまるっきりといっていいほどなかった。 つまり、そういうお店を、“平成”しか知らなかったわけだ。 なんとなく、“平成”にはちょっといきたくないなという気がした。 ちょうどその頃、Dという一般誌が“文学賞の取り方”という特集を組んでいて、 僕はそれを購入した。 で、その号のもうひとつの特集が、SEXについてのものだった。 そのなかに、“最近の流行はアナルセックス”というページがあって、 それ専門のふーぞく店が二店、電話番号つきで紹介されていた。 「おおっ! こっ、これだ!」 僕はロリコンのくせに女の子のお尻が大好きという、 ほんまもんの変態だったりする。 しかも本能的に、 「こういう一般的な雑誌で紹介されている店は危険度が低い」と察知していた。 いくぞ、いってやる! ちょうど望外のボーナスを手にして、気分と懐が多少大きくなっていた時期でもあった。 さて、その週の土曜日、僕は財布に10万円を入れて (Dには料金がちゃんと書かれていたが、万が一ということもある)、 三年ぶりくらいに池袋を訪れた。 紹介されていた店は、ふたつとも池袋だったからだ。 雑誌には、店への住所と地図は掲載されていなかった。 とにかく店の名前だけをもとに、捜してみることにした。 ふたつとも写真指名はあったから、先にいきついたほうに入ろう。 ちなみに当時の僕は、ふーぞく店というのはすべからく店名が目立つようにネオンに書かれていたり、 ビルの脇の看板にでっかく出ていたりしているものとばかり思っていた (もちろんそういう店も多く存在するが)。 知らないものの怖さだといえよう。 ・・・結局、僕は夕方18時から夜23時まで、 おおよそ五時間池袋の西口から東口までさまよい歩いた挙句、 疲れ果てて丸の内線の電車に乗るはめになった。 さて、一週間後。 僕はDに紹介された店のうちのひとつ、『尻キチ隊』 に電話をかけて、場所を教えてもらうことにした。 さすがにちょっとだけ利口になっていたんだと思う。 教えられた通りに歩いて店が入っているビルの前に着くと、 肩の力ががっくりと抜けてしまった。 一週間前の行為はまるっきり無駄なことだったと気付いたからだ。 ビルの一階から三階は某大手ハンバーガーショップ、 八階にはこれもチェーンの居酒屋。 他の階もごくふつうの会社だ。 こんな健康的なビルにそんな店が入ってるなんて、 それこそ誰も、夢にも思わないだろう(と、そのときはそう思った)。 ともかく僕はエレヴェイタに乗って、上に昇った。 箱から出るとポロシャツを着たニイちゃん(たぶん僕よりぜんぜん若い)が、 「いらっしゃいませ。はじめてのお客様ですか?」 と声をかけてきた。 「はい」 で、指入れと本番行為は禁止だとか、 当店はSMクラブではないので女の子に手荒なことはしないでくださいなどの注意と、 システムの説明を受ける。店員さんの態度はかなりよかったと思う。 七十分AF(アナルファックですね、とうぜん)コースというのを選んで、 写真指名をする。 その日は、五人の女の子が入っていた。 ひどいはなしだが、写真を見た僕は、全員ぶすだと思った。 「んー・・・」 選びかねている (というより、誰も選ぶ気がしなかった) 僕を見て、店員さんが助け船を出した。 「あの、どういった女の子が、お好みなんでしょうか?」 「んー、やっぱかわいい女の子ですね。 で、できればおっぱいがちっちゃいほうが (筆者注:くどいけど僕はロリコンだ)」 「あ、じゃあこの子はどうですか?」 彼は写真の一枚を手にして、僕に差し出した。 「Hちゃんっていうんですけどね。 顔も可愛いし、おっぱいも大きい (筆者注:なにを聞いてたんだお前は) ですよ。 新人で、当店としてもお薦めの女の子です」 「じゃ、この子にしてみます」 相手はほっとした表情で、 「じゃ、こちらでしばらくお待ちください」 と、僕を待合室に通した。 <無駄遣いしちゃったかなあ・・・・。> 待合室で少年ジャンプの『幕張』を読みながら、 僕はそう考えていた。 お金の問題ではない。 写真の女の子はどう見ても好みじゃなかった。 あんな子にお尻童貞を捧げてしまうのか俺は、くううっ。 「お待たせしました、どうぞ」 店員さんの声に、僕は絞首台に送られる死刑囚のような心境で、 立ち上がった。 「こちらの部屋です。では、ごゆっくりどうぞ」 彼が去ってゆくと、僕は唾を飲み込んでドアをノックし、扉を開けた。 「いらっしゃいませ。Hです」 薄いカーディガンを羽織って微笑みかけてきた女の子を見て、 僕は思わず一歩後退り、同時に思考が一瞬停止した。 <これがあの写真の女の子? 嘘だろ、写真より一万倍はかわいいぞ> 「どうしたんですか?」 フリーズしてしまった僕に、彼女がちょっと心配そうにいう。 僕が逆の感情を持ってしまったと思ったらしい。 「いや、あの、えっと・・・。 あなたが写真よりあんまりかわいいもんだから、驚いちゃって・・・・」 「うふふ」 彼女は一瞬、ひどく嬉しそうに微笑った。 |
注1;池袋東口徒歩約10分。TEL;03-5992-4477(当時) |
注2;入会金無料。
AFコースは40分15K、70分25K。
写真指名料は2K(当時)。
他に性感コースもあったはずだが忘れた。 なお、金額の表現方法はもものすけさんを参考にさせていただきました。 |
注3;なんで“当時”をつけるかというと、もう一年以上
『尻キチ隊』に脚を向けてないからです。
もしかしたら店の名前やシステムが変わってしまっているかもしれないので。 |