池袋(ツキ)篇(後編)


 部屋は“平成”に比べるとひどく暗くて、狭かった。 三畳くらいのスペースに、セミダブルのベッドとサイドボード。

「じゃあ、脱いでくださいね」
 Hちゃんはわりとあっけらかんといった。 僕は服を脱いでそばの籠に放り込み、手渡されたピンクのタオルを腰につけた。 Hちゃんもはだかになって、これもピンクのバスタオルをからだに巻く。
                           

「じゃ、シャワーいきましょ」
 あ、そうか。 シャワーは共同なんだな。 Hちゃんはドアをちょっと開けて、
「お客様、シャワー入りまーす」
 といって僕をシャワー室に案内した。

 からだを洗ってもらいながら、 仕事のこととかいろいろなはなしをしたが、ほとんどうわの空だった。 僕はHちゃんにみとれてしまっていた。 ほんとうにかわいくって、 おっぱいもいい形をしている。 からだを洗い終わったHちゃんが、
「じゃ、ちょっと失礼しまあす」
 としゃがみこんで僕を生で口にしたときには、 もう完璧に臨戦態勢になってしまっていた。

 部屋に戻って、
「お尻ははじめてだから、よろしくお願いします」
 というと、
「私も入って一週間だから。 一緒に頑張ろうね」
 Hちゃんはそういって微笑った。

 とりあえずあお向けに寝かされる。 Hちゃんがキスしてくる。 ちゅっ、って感じのキス。 アタマのなかを幸福感が充たす。 そのまま乳首や脇腹を口撃。 Hちゃんにされてると思うと気持ちよさが倍になる。 人間はメンタルな動物だ。

 そのうち舌が南下してゆく。 おおっ、と思ったら左の太腿へ。 一瞬戻って今度は右の太股へ。 また戻ってきたから、今度こそ、と思ったら脇腹にいってしまう。

<うわーはやくまんなかの脚をなめてくれえ!>
 そう切実に思った瞬間に、そこがひどくあたたかいものに包まれた。 くどいようだが、Hちゃんにしてもらってると思うと、ものすごく気持ちいい。

「ねえ、あなたのからだを触ったりなめたりしたいんだけど」
 といって、今度は僕が上になる。 キスする。 Hちゃんはキスする瞬間、必ずちょっと口をすぼめる。 この子も“ねちっこい”キスは嫌いなのかもしれない。

 おっぱいと脇の下を重点的に攻めた。 眼を閉じて微かに口を開いたHちゃんの表情が、やっぱりすごくかわいかったからだ。 Hちゃんの反応が意外によかったせいもある。

 かなりの時間そこに執着して下半身に手を伸ばすと、 そこはしっとりと濡れていた。 ローションじゃないことは指の感覚(さらっとしていた)と彼女の反応でわかる。 Hちゃんに脚を開いてもらってそこを眼にした瞬間、僕はもう一度感動した。

すげー綺麗だ・・・>                  
 土手のあたりにうっすらとあるだけで、本体は無毛。 しかも色がとても綺麗だ。 僕はそこに口をつけた。 Hちゃんの味がした。 クリトリスをなめ、指入れは禁止されてるので、代わりに舌を入れた。

 クンニリングスを比較的はやく切り上げたのは、はやくHちゃんとひとつになりたい、と思ったからだ。

 Hちゃんは僕にゴムを被せると、ローションを自分のお尻の穴に塗った。 指を入れる瞬間、ちょっと顔を顰める。まだ慣れていないのかもしれない。

 よつん這いになったHちゃんのお尻に、自分のものをあてがう。
「もうちょっと上」「角度もうちょっと緩くして」 とアドヴァイスされながら試行錯誤しているうちに、するっ、と入った。

 それはひどく奇妙な感覚だった。 どちらかというと肉の快感よりも、“Hちゃんのお尻に入っている” という歓びのほうが強かったと思う。

「痛かったらいってね」
 そう声をかけて、ゆっくりと腰を浅く動かす。 すごく締め付けがきつくて、なにかのはずみですぐに抜けそうになる。

 そのうち、僕はおかしなことに気付いた。

あんまり気持ちよくない・・・?

 初期の感動が薄れてくると“Hちゃんの顔が見えない”ために、 精神的な興奮がフェイドアウトしてしまい、肉の快感だけになる。

 しかもHちゃんの反応は、慣れていないせいかいまひとつ。 おっぱいやクリトリスを指で攻めようと思っても、 ちょっと油断すると抜けそうなので、 両手はHちゃんのお尻をしっかりとホールドしていなければならない。

 しかたがない。 僕は肉の快感を高めるために、少しずつ腰の動きを深く、そしてはやくしていった。 もちろんHちゃんが「痛い!」といったら、すぐにやめるつもりで。 だんだん快楽が大きくなる。 フィニッシュまでもう少し。 僕の貌は、だんだんゆがみはじめる。

 ・・・しかし。

 そのうち、あまり大きく動かしすぎたせいで、 するっ、と息子が抜けてしまった。 あと少しだったのに・・・。呆然とする僕。
「・・・抜けちゃったあ?」
 Hちゃんが、僕のほうを振り返る。 と、
「あー・・・!」

 と小さく叫んだ。 どうしたんだろう。 Hちゃんの視線を追った僕の眼は、息子の頭にたどりついた。

<わ。>

 Hちゃんがびっくりしたのも無理はない。 そこにはHちゃんがなん時間か後に捨てるはずだったものの一部が、 くっきりとくっついていた。

「ごめんね、ごめんね」
 平静を取り戻したHちゃんが、ティッシュでそれを丁寧に拭う。 僕は呆然としていた。 アタマのなかを別の想いが、一瞬にして充たしていた。

> 「他人がウンコをするのを見てイヤにならなかった?」と
> 訊くと、「ううん。集団オナニーよりも大人っぽく感じた。
> だって内臓の中身まで人に見せるのってすごいじゃん。
> かっこいいなと思った」
『AV女優』より)               

 カッコよくなんてぜんぜんない。 そしてふつうアナルファックを売りものにしてる店なら、 それは間違いなく、恥ずべきことだったのかもしれない。 だけど、僕は感動した。 Hちゃんの内臓のなか身まで、見てしまったことに (断っておきますが、僕は決してスカトロマニアではありません)。

「ねえ、シャワー浴びるでしょ? 気持ち悪いもんね」
 僕からゴムを脱がせたHちゃんがいった。

 結局、シャワーから戻ったあと、 僕のものは回復するのに時間がかかったし、 Hちゃんは“またついちゃったら・・・”という不安からか、からだがかたくなってしまって、 出さないままタイマーが鳴ってしまった。

 服を着てる間、Hちゃんは、
「ごめんね、ごめんね」
 と繰り返した。
「いいよ、またくるから。 今度は最初からあなたを指名して」
 というと、
「ホント?」
 と、ほんとうに嬉しそうな顔をした。

 受付の前を通る際、さっきのニイちゃんが、
「いかがでした?」
 とにたっと笑った。

「よかったです」
 そうしか答えようがないじゃないか。 ニイちゃんに僕の気持ちがわかるはずもなく、
「ありがとうございました、またのお越しをお待ちしております」
 と僕を笑顔で見送った。


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『AV女優』永沢光雄、ビレッジセンター出版局。
1996年4月20日 初版第1刷発行

















































アナルセックスをする際、浣腸をして直腸のなかをキレイにしておくというのは、一般常識だ。 これによって肛門の締め付けも弱くなり、インサートしやすくなる(らしい)。