中野(入口)篇(前編)

ここもすっとばす


 ドアを開けてなかに入ると、すぐ右手にカウンターがあった。
「いらっしゃいませ、ご予約ですか?」
 黒服を着たニイちゃん、というよりおじさんがいう。 “ご予約”というのは“予約済”のことだと気づき、 「いいえ」と答える。
「では、前金で一万円ちょうだいします」

 お金を払うと、こちらでお待ちください、 と奥の応接室みたいな場所に案内された。 12畳ほどの結構ゆったりしたスペースのソファには、先客がひとりいた。 奥に据えられた26インチのTVで『知ってるつもり!?』を観るともなしに観ている。

 こういう気分のときに、 関口宏と加山雄三の顔のコンビほどそぐわないものはない、と思った。

 五分くらい経って、もうひとり客がやってきた。 こういうのってなんか気まずいなあ、と思う。 なんとなく、お互い自分の“やりたいぞオーラ”を必死に隠しあっている感じで。

 五分ほどでさっきの黒服おじさんがやってきて、
「お待たせしました、どうぞ」
 と僕の顔を見ていう。

 あれ、先客は? と思ったが、 <このひとはたぶんお目当ての女の子に“予約”を入れているんだ>と気づき、 ソファを立っておじさんについてゆく。 廊下の突き当たりに、黒いシースルーのブラウスに豹柄のタイトスカートを履いた女の子が待っていた。

「いらっしゃい、Mです」
 僕はちょっと安心した。 日本語ははっきりしてるし、暗くてよく見えなかったけど、ともかく二十代みたいだし、からだはスレンダーっぽかった (基本的にロリコンだから細い子が好き)。

「じゃ、ご案内します」
 Mさんについて階段を二階へ。 ビジネスホテルみたいに廊下の右側に並んでる、部屋のひとつに入る。 変な部屋だった。 まるで団地の風呂場と小さなベッドルームを無理矢理にくっつけたような構造をしている。

「じゃ、脱いでね。服はそこのカゴのなかね」
 なんだかまるで現実感がなくて、ぱんつ一枚でベッドに腰掛けてると、
「全部脱いで、ここに座って」
 いつの間にか全裸になったMさんが、シャワーからお湯を出しながら、俗にいうスケベ椅子を指さしていう。

 僕はぱんつを脱いで、そこに座った。 歯磨き粉付使い捨て歯ブラシを手渡されて、歯を磨く。 眼の前にからだを洗っているMさんがいて、そのはだかが嫌でも眼に入る。 思った通り、Mさんのおっぱいは手のひらサイズだった。 ちょっとうれしい。

 歯磨きを終えると、Mさんがスポンジにボディソープを含ませて僕のからだを洗いはじめた。

「ねえ、なんかカタいよ。どうしたの?」
「いえ、あの、こういうとこくるのはじめてなもので・・・・。 で、あんましえっちの経験もないから、緊張しちゃって」

「ほんと。かなり緊張してるみたいね」
 Mさんの手が僕を洗っている。 ひどく優しくて繊細な動きで、アタマでは気持ちいいと思ってるのに、ぜんぜん力が入ってこない。

「すいません」
「いいんだよお。 そのほうがかわいいもん。 はじめてのくせに堂々としちゃって、いろいろやらせたがるほうが、私はヤだな」
「そうですか?」
「うん。 だって私自身、態度Lサイズだもん。 店のなかじゃLLっていわれてるけど」

 洗い終わって泡を流してもらうと、湯船につかった。 Mさんは洗い場をてきぱきと片づけている。 なんかぜんぜん、えっちな気分になれない。 このままビール飲んで寝たい、とさえ思う。

 風呂からあがってからだを拭いてもらうと、
「じゃね、ベッドに、あお向けに寝て」
 僕はいわれるままに、バスタオルを敷いた硬いベッドに横になった。



TO BE CONTINUED・・・