前略、ゴウスケ殿。

『バトル・ロワイアル』 高見広春
(一九九九年四月二一日第一刷発行・太田出版)


 強固な全体主義(ファシズム)とひとかけらの自由、そして巧みな貿易手段を背景に繁栄する東洋の島国、大東亜共和国。

 修学旅行に向かう香川県白岩町立白岩中学校三年B組の生徒42人を乗せたバスは、なにものかに拉致される。催眠ガスで眠っている間にある島に連れてこられ、眼を覚ました生徒たちの前に現れた坂持と名乗る男は、こういい放つ。

> 「今日は、皆さんにちょっと、殺し合いをしてもらいまーす」

“プログラム”。毎年、すべての中学三年生のなかから無作為に50クラスを抽出し、生徒同士で殺し合いをさせ、最後に生き残ったひとりが優勝者となる通過儀礼(イニシエイション)。そして史上最悪の椅子取りゲームが幕を開ける・・・。

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 前略 ゴウスケ殿。『バトル・ロワイアル』読みました。今日の10時に読みはじめて、途中昼食と来客で二時間ばかり中断したけど、18時50分に読み終わりました。

 結論からいうと、すごかったです。約7時間かけて一気読みした甲斐は十分ありました。で、是非感想を話し合いたいと思って電話したんだけど誰も出なくて、じゃあFAXで送ろう、とこの文章を書いている次第です。

 これ、なんの新人賞に落ちたんだっけ? ゴウスケはホラー大賞っていってたような気がするけど、ホラー大賞じゃ落ちると思ったよ。だってこれ、ホラーじゃないもん(だから怖いモノ嫌いな俺が最後まで読めたんだけど)。

 かといって、ミステリー大賞にも落ちたらしいけど、これやっぱりミステリィでもないよね。『小説推理』なんかに馳星周や花村萬月の作品が載っている現今では、入れてもいいような気もするけど。

 ようするに、現在の日本の“ジャンルを区切った小説賞には、この作品が受賞できる賞は存在しない。おそらく枚数制限からホラー大賞に送ったんだろうけど。

 無理にカテゴライズするとすれば、やっぱりバイオレンス、もしくは馳星周が最近そう呼ばれてる暗黒小説かな。ホラーにしてはあまりに台詞がカッコよすぎる(たまに鼻につくけど)し、頻発するカッコ内のおちゃらけが邪魔してる。

 日本が大東亜共和国で米国帝国主義と敵対してる設定はSF的だし(小林信彦さんがこれに似た短編を書いている)、それにしては“米帝”に侵されすぎだし(笑)、土台この小説をカテゴライズしようってのが無理なんだと思う。

 ともかく、ホラー大賞選考委員としては、おそらく今後も彼はこのような手法で小説を書き続けるだろうから、「ホラー大賞」受賞者の烙印を押したくもなかったんじゃないかな。でもそれも尻の穴の小さい考え方だね。

 選考委員がこの作品を「非常に不愉快」「嫌な感じ」「賞のためには(入選させることは)絶対にマイナス」とかいって拒絶したってはなしだけど(それで後日選考委員の質が問われたってことだけど)、馬鹿だよね。

 そもそもホラーなんてのは初手から不愉快で嫌な感じのするジャンルなんだからさ。じゃあどんなホラーならいいんだろうね。『パラサイト・イヴ』なんて、俺読んでてかなり嫌な感じをもったんだけどさ。

 とにかく、この作品にはパワーがある。ジャンルはともかく、応募したどんな賞をも受ける権利があると思うよ(あ、文芸賞は無理そうだな。選考委員がさらにアタマ堅そうだ)。でなきゃ俺が一気に読めるわけないもん。

 あー、読後の興奮のせいか、うまくまとまらない。ゴメン。

 最後に。これは双方最後まで読んだから書けるんだけど、ラストはよかったよね。あれで救われた気分になったよ。でも、たぶんあれ、出版の際に書き直してる。ホラー大賞に落選したものは、きっともっと悲惨なラストだったと思うよ。

 というわけで。もしゴウスケがもうカナダに旅立ったあとだったらこのFAXを読むのは一年後になるかもしれないが、そのときはお互い『バトル・ロワイアル』を再読して、スコッチでも飲みながら語り合いましょう。


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