ないしは重度の依存症

『テロリストのパラソル』 藤原 伊織
(1998年7月15日第1刷発行・講談社文庫)


 大学時代、'60年代末期の学生運動に興味をもって、調べてみたことがある。 最終的にこれは、三年時のゼミ論としてまとまることになった。

 興味をもったきっかけは、いくつかある。 某国立大の入試のとき、正門前にヘルメットを被りマスクをつけたひとたちが大勢、ビラ配りをしていたこと。 彼らを取り巻くように機動隊が整列し、護送車が数台停まっていたこと。

 僕の通っていた大学が、学園紛争の際に“○○(大学の名前)方式”という、当時としては画期的な方式を導入したこと。 これはいまだにそれ関係の文献をひもとくと、必ずといっていいほど、出てくる。

 そして、その後の経過はどうあれ、その世代のひとびとが、僕らの世代(僕だけかもしれないけど)に大きな影響を与えていること。

 さて、『テロリストのパラソル』の主人公は、アル中のバーテン。 もと学生運動の闘士で四十代後半、昨年の年収は百万にちょっと足りないくらい。 アル中だがボクシングの心得があって喧嘩は滅法強く、アタマもまあ切れる。

 ある日、晴れた日は新宿中央公園で一日の最初のアルコールを摂取する、という日課をいつものようにこなしていた彼は、爆弾テロ事件に遭遇する。 被害者のリストに、かつて共に大学の校舎に籠った仲間ふたりと、警察庁公安の警視長の名前。

 二十二年前の自分の過去と、そしてその場にいあわせたという事実。 自らの意志に関わらず警察に追われることになった彼は、単独で真犯人を突き止める決意を固める。

 ・・・と、この設定だけで、高校時代に西村寿行さんの作品を読みふけった僕なんかは、すごく嬉しくなってしまう。

 もちろん、まるっきりの単独で事件を追えるわけがない。 彼は必然、もしくは偶然的になん人かの手を借りることになる。 そのなかに相棒といっていい存在として、浅井という経済やくざと塔子という女子大生が登場する。 これがまたいい。 彼らと主人公との会話が絶妙。

> 「乗り込むのか」
> 「わからない。そういうことになるかもしれない」
> 「それこそ、竹やりで戦車に突っこむようなもんだぜ。
> だが、忠告しても聞きゃしねえだろうな」
> 「なぜ、そう思う」
> 「おまえさんが、いまどき珍しい骨董品だからさ。
> おれがいままで会ったなかじゃ、いっとう古いタイプだ」

> 「あなたの話には、教訓があるわね」
> 「どんな教訓?」
> 「クルマのブレーキをきちんとしておけば、
> 感傷的にならずにすむ」
> 私は笑った。
> 「そのとおりだ」まったくそのとおりだ。

 あ、でもこれをいいと思うのは、寺沢武一さんの『ゴクウ』のセリフをカッコいいと感じる、僕だけかも。

 解説にも書かれているけれども、この作品の評価は、読者の世代とか考えかたによって、まるで違ってくるだろう。 それはそれでいいと思う。 僕にとって面白い小説だったというのは、間違いないのであって(ラストにちょっと不満はあるけど)。

 僕は『フィールド・オブ・ドリームス』を観るたびに、幼いころの父親とのキャッチボールの記憶がリンクして泣いてしまう。 でも、そういった経験をもたないひとびとにとっては、これは面白くもなんともない映画なのかもしれないし。

 さて、ブックレビューとしての役目はここまで。このあとは本当に個人的な想いを書きます。

 もし『テロリストのパラソル』が映画化もしくはTVドラマ化されたら、塔子役はぜったい松たか子にやってほしいと思う。主人公は緒方拳。浅井は・・・。叶わぬ夢だけど、やっぱり松田優作だよなあ。


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たとえば文学でいうと、村上春樹さんや高橋源一郎さんの小説には、明らかに自己の学生運動体験に基づいていると思われる箇所が、いくつもあります。 村上龍さんの『69』なんて、もろそのものですしね。
















































『テロリストのパラソル』や『新宿鮫−無間人形−』が直木賞を受賞できる状況のいまになって考えると、十年か二十年はやすぎたひとだったという気がします。

ただ、作品のカテゴライズはともかく、その主義(あえてここでは触れませんが)からすると、やっぱりメジャーな賞は受けられなかったかもしれないなあ・・・。
















































これは海外のハードボイルドの影響をもろに受けていると聞いたことがあるが、あいにく僕はハメットもチャンドラーも読んでいない。

それらのファンのひとびとにはこのセリフ廻しが許せないらしいが、どうせ読んだのは翻訳だろ、と思う(←問題発言)。