100年後の日本は・・・

『日本の川を旅する』 野田 知佑
(昭和六十年七月二十五日発行・新潮文庫)


 野田知佑さんの最新作(僕は文庫しか読まないので、文庫でのだけど)『北の川から』を読んだ。 野田さんは僕にとって、”そのひとの書いたものなら必ず面白い”唯一のひとだ。

 解説で太田和彦さんが、やはり野田さんの『北極海へ』に触れているのを見て懐しくなり、今度はそれを本棚からひっぱり出して読む。 そうするともう止まらなくなってしまい、『魚眼漫遊大雑記』から年代順に、すべての作品を読み返すことになってしまった。

 いちおう、知らないひとのためにちょっとだけ書いておく。 野田さんは日本における”遊びカヌー”の第一人者だ。 川で遊ぶ・川を遊ぶ、ことの名人、といい換えてもいい。

 野田さんの文章はまるで、「川ってこんなに楽しいものなんだよ」って、大声で叫んでるみたいだ。 そしてそれは、読んでいるだけで、楽しい。 『北極海へ』の解説で立松和平さんが、

> カヌーで川下りをやっていると、野田さんの深い影響下に
> あるとしか思えない人に必ず会う。
> それも一人や二人ではなく、何人もとだ。
> (中略)カタログ雑誌の中から脱け出してきたように、
> 帽子からブーツまで野田さん風に決めている。

 さもありなん。 野田さんの本を読むと、川にいきたくなる。 そして、野田さんのように遊びたくなる。 それを実践する行動力がない(もしくは単なるものぐさ)のが、実は僕だったりするんだけど。

 ただ、まあ、野田さんの文章はうまいので、読んでるだけで川にいった気分になる。 野田さんが沈(カヌーがひっくり返ること)すると自分も水を飲んだような気になるし、野田さんが嫌な役人連中を川に放り込むと、自分も爽快な気持ちになる。

 さて、もしこれを読んでいるあなたが野田さんに興味を持って、その本を読んでみたいと思ったとしたら。 絶対に、最新刊から読んではいけない。

 新潮文庫版だけでもいい、『日本の川を旅する』から必ず年代順に読むことを薦めたいと思う。 そして、日本の役人というのがどれだけ阿呆で、この国をどんどんダメにしていったかを、知ってほしいと思う。 それに憤りを感じてほしいと思う。

 もちろん『日本の川を旅する』が面白くなかったら、そこで読むのをやめてしまえばいい。 そのほうが、ある意味幸福なのかもしれない。

 今回野田さんの本を”年代順に”読み返した僕が、どうして新潮文庫版では二作めの『魚眼漫遊大雑記』から読みはじめたのかというと、

『日本の川を旅する』をいま読めば、きっと僕は、泣いてしまうだろうからだ。 あまりの情けなさと、悲しみのために。


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お断り:この文章は『さらぱんの詩』掲載用に、'97年11月に書いたものを加筆訂正したものです。

自宅のワープロで打ったため、どこに保存したか忘れ、さらにファイル自体の存在も忘れていました。 それが先日別件でフロッピィの家捜しをしたら、ひょっこり出てきたわけです。 その間に“酔書日常”がオープンした(笑)ので、こっちに掲載することにしました。

なので'98年7月25日現在、『北の川から』は厳密な意味では“最新作”と呼べないかもしれません。 ただしその後に出たのが『川へふたたび』だけだとしたら、じゅうぶん“最新作”かも。
















































『北の川から』 平成九年十月一日発行、新潮文庫。
















































“そのひとの著作を最低五冊以上読んで”、という条件がつきます。
















































『北極海へ』 1995年11月10日 第1刷、文春文庫。

カナダの大河、マッケンジー1,800キロを下った、野田さんの記録。 現地のひとびととの交流が笑えます。
















































『魚眼漫遊大雑記』 昭和六十三年九月二十五日発行、新潮文庫。

川とは直接関係ありませんが、野田さんがそれまでに訪ねた世界じゅうの国ぐにを、かなり独断と偏見の入り混じった眼で(と野田さん自身が書いています)料理した名著です。
















































'98年7月31日現在の最新刊(文庫での)は、

『川へふたたび』 一九九八年七月一日 初版第一刷発行、小学館文庫。

いままでの本からのダイジェスト版(に近い)ですが、野田さんに興味はもったけど時間とお金がないひとには、これをお薦めします。 特に『長良川』の項を読んでみてください。 僕はここを読んで、電車のなかで泣きそうになってしまいました。