『To Heart』、Windows用ゲーム、
リーフ、1997年。

T159cm、B87cm、W54cm、H84cm。
ゲームやってる最中は気付かなかったけど、実は素晴らしいプロポーションですね。さすが先輩(^^;。


 芹香先輩(ゲーム内で来栖川芹香は主人公の一級上)は無口だ。どれくらい口数が少ないかというと、『To Heart』PS版では各キャラに声がついているのだが、彼女の声が拝める、いや聴けるのは、確認できた限り14ヶ所しかない。

 しかもそのほとんどが「マジです」とか「・・・運命的?」とか、ひとことだけ。ついでにいうと、この14ヶ所というのはプールで溺れかけた「あぷっ!」とか、重複する台詞も含めてのものだ。恐るべき寡黙。

 こんな無口でコミュニケイションができるのか。実は芹香先輩はちゃんと意思疎通に必要な程度のことばは口にしている。が、その99%がたが“ぽそぽそ”と囁くような小声で発せられるため、そのたび主人公が聞き返す必要が生じる。

 だから、結果的に、プレイヤーは芹香先輩のほとんどの台詞を、主人公(の問い返し)を媒介にして聞くことになるわけだ。これは意図的なのかどうかわからないが、すごく上手い設定だと思う。

 僕はいつも恋愛SLGを本名プレイで行う。だから基本的には「主人公=自分(プレイヤー)」という図式(感情移入)が成り立つわけなのだが、芹香先輩とは直接のコミュニケイションが許されていない。

 ほら、あるでしょ、時代劇とかで。将軍とか大名が身分の低い者と会話する際、身分が違いすぎるため「直答を許されぬ」ってことで、家老とか小姓を介して会話するっていうの。

 この場合の家老とか小姓のことを“取次”と呼ぶ。芹香先輩との会話において、主人公はまさにこの取次。「直答を許されぬ」ことによって、プレイヤーは無意識的に芹香先輩との身分の違いを感じることになる。

 いや、身分の差なんて現代社会では存在しないに等しい。が、芹香先輩は「日本の経済界を牛耳る巨大コングロマリット」来栖川グループ会長の孫なのだ。二代めくらいならともかく、三代続けば正真正銘のお嬢様。

 ちょっとはなしが逸れるが、先行恋愛SLGで“お嬢様”属性をもつ代表的なキャラとして、古式ゆかり(『ときメモ』)、水谷由梨香(『トゥルー・ラブストーリー』)などが挙げられる。

 古式ゆかりは「おっとり」さで、水谷由梨香は「高慢」さで、その属性を強調している。僕が『To Heart』(のシナリオ)を優れていると思うのは、芹香先輩と綾香(先輩の妹)、ふたりのお嬢様の描きかただ。

 芹香先輩は古式系、綾香は水谷系。だが、芹香先輩は「おっとり」に“ぽそぽそ”(取次)をつけ加えることにより、先行の「おっとり」との完全な差別化に成功している。

 綾香は「高慢」さに“親しみやすさ”がプラスされている、“手の届くお嬢様”。Win版では完全に脇役だったのにPS版では綾香シナリオが付け加えられたという点を見ても、この試みは成功だったといえるだろう。

 ともかく、これによって芹香先輩と綾香は完全なオリジナリティを有するに至った。さらにいうと、この後“後追い”が出てきたところで、綾香のパクリはまあ可能だが、芹香先輩のパクリはまず不可能だ。バレバレになっちゃうから。

 まあ、はなしを元に戻して。“ぽそぽそ”の第二の効果は、芹香先輩の声を直接(主人公を通さずに)聞けたときの感動だ。特に、僕が思わず彼女のいじらしさに涙してしまったシーン。先輩は囁くように、だがはっきりと口にする。

「・・・○○(僕の本名)さん・・・」

 うひゃ〜! やるせないやるせないもじゃ〜!!! いや、本当にここで胸かきむしりましたよ私ゃ。

 残念なのは、PS版にも同じシーンがあるのだが、声に出して名前を呼んでもらえないことだ。Win版の場合、初手から声がついていないので違和感はない。ので、こと芹香先輩に関しては、Win版のほうが評価が高い。

 そして第三の効果。口数が少ないのを補うべく、芹香先輩の行動描写には独特の擬態語が多い。肯定の“こくこく”(首を縦に振る)、否定の“ふるふる”(首を横に振る)、などなど。

 僕が特に好きなのは“たたたた・・・”(走る音)なのだが、これらがかわいらしさに拍車をかけている。こっちが齢下(ゲーム上ね;)なのに、「守ってあげたい!」的感覚になる。まさにことばは言霊だと思う。

・・・おっと、“ぽそぽそ”だけでかなりの長さになってしまった。さらにもうひとつだけ芹香先輩の魅力を上げるなら、“無表情”だ。彼女は普段、喜怒哀楽をほとんど顔に出さない。

 が、つきあっていくうちに、主人公は芹香先輩の微妙な表情の違いがわかるようになる(ような気がしてくる)。実際眉のひそめかたや目許の微妙な変化など、CGも丁寧に作られているが。

 だが、なんといっても、普段無表情な彼女が頬を赧らめる(感情をはっきりと顔に出す)姿。これにはせつなさ爆裂。それがレアなぶん、またすごく感動なのだ。先述のシーンはこれがさらなる相乗効果を生んでいる。

 ともかく、これだけは断言できる。これから以後も数多の恋愛SLGと女の子キャラが生まれるだろうが、芹香先輩をパクったキャラはまず登場しないだろう。芹香先輩は、なによりその存在からしてレアアイテムなのだ。


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> ゲームの主人公の名前を、
> プレイヤー自身の名前にしてプレイすること。
> 主人公に感情移入するためには常識だ。

『別冊宝島421 空想美少女大百科』、1999年1月3日発行、宝島社。より引用。
















































結局のところ、『センチメンタルグラフィティ』のお嬢様、綾崎若菜は、常識的な「おっとり」に徹してしまったため、ついに古式ゆかりや来栖川芹香を超えることができなかった(と、僕は思う)。

これだけ恋愛SLGが氾濫する状況下、シナリオライターはせめて話題のゲームくらいはチェックしておく必要があるのではないだろうか。“後追い”は有利だが、魅力的なキャラを創造できなければ逆に批判の対象になるのだ。