旅行でいったマレーシアは、煙草がひと箱350円くらいした。それでみんな出国前に免税店で買い溜めしてたのか・・・。
ちくしょー、現地の煙草を吸わずしてその国がわかるかっ(←負け惜しみ)!


 また煙草の値段が上がった。なんで10年間無為無策だった政府のツケを愛煙家が背負わなければならないんだ、まったく。これが旧専売公社の赤字ってんならまだわかるが。

 小学校低学年の頃だ。祖父母の家に泊まった夜、祖母と一緒にTVの刑事ドラマを観ていた。たしか麻薬密輸事件を扱ったはなしで、劇中に覚醒剤中毒者がクスリを買うカネ欲しさのあまりタクシー運転者を絞殺するシーンがあり、祖母がぽつりといった。

「・・・怖いねえ。麻薬なんか絶対やっちゃいけませんよ」

 三つ子の魂というのは怖ろしいものだ。そのとき僕のアタマには「クスリには絶対に手を出してはいけない」という意識がしっかりとプリンティングされてしまった。それ以来僕は幾度か機会はあったものの、あらゆる種類のドラッグを拒否して今に至っている。

 さて、僕が煙草をはじめて吸ったのは高校二年生のとき。もともと僕は高校生の頃陸上の長距離走をやっていたし品行方正な少年(←ウソつけ)だったので、煙草を吸おう、吸いたいなんていう気はまるでなかった。

 そのときはまあ、思春期によくある親とのいさかいで家を飛び出し、ちょっと不良めいたことでもやってみようと煙草屋で親父のお使いを装ってマイルドセブンとライターを購入。鉄橋の下(あまりにありがちなシチュエイションなので恥ずかしいが)で火を点けてみたわけだ。

 TVドラマでよくやるようにむせたりすることはなかった。が、なんかぜんぜん効かん、おかしいなあと思い、親父の真似をして吸った煙を肺に入れてみた。

 わわわわわわわわ。

 頭がくらくらする。なんだなんだこの感覚は。酒は親父のつきあいで小学生の頃からビールをコップ一杯くらいは飲んでいたが、酔っぱらうまで呑んだことがないから酩酊状態というのがわからない。無理して二本吸ってみたが、おいしいとはぜんぜん思わなかった。

 僕は高校三年の11月、高校駅伝の大分県予選まで陸上部の現役だったのだが、煙草を本格的に吸うようになったのはそれ以降のことだ。どう疑いようもなく、大学受験のせい。

 なにせ高校受験は中学側が綿密に進路を調整し、なるべく不合格者が出ないようにする(ちなみに僕の高校では不合格者がひとりだけだった)ような地域だから、完全にオープン競争の受験というのはこれがはじめて。

 そのうえウチの親(母親のほうだが)は相当身勝手で、「旧国立一期校クラスの大学でなきゃいかせん」というくせに「浪人はさせない、受験大学全部落ちたら働け」という要求をつきつけてくる。自分の息子をどう過大評価していたのか知らんが、これは相当なプレッシャーだと思う。

 それまでにもちょびちょびとは吸っていたのだが、陸上部を完全に引退してタガが外れると、もはや歯止めがきかなくなった。

 ダウンタウン・ブギウギ・バンドの『スモーキン・ブギ』とまではいかなかったが、学校で授業をフケて屋上で英単語集や日本史の問題集をめくりながら吸う。家では受験勉強の合間に、親が寝た頃を見計らって吸う。

 受験が近づくにつれて本数は加速度的に増え、そういう限定的な状況で吸っていたにも関わらず一日の消費量はひと箱まで達し、四月に晴れて大学に入学する頃には、僕は完璧なニコチン中毒になっていた。

・・・もちろん仮に、ということだが、あのとき煙草がなかったら、僕は本当に精神錯乱状態になっていたんじゃないかといまでも思う。そうすると大学受験どころではなく・・・、いや、想像するのは怖いからやめる。

 曾野綾子さんの『太郎物語−大学編−』に、
「煙草を吸う人間は、手術の痛みに耐えやすいんだって」
 という一文が出てくる。

 実際、僕は一度手術を経験したことがある。術後七時間はICU(集中治療室)に入れられ(別に僕が重傷だったわけではなく、その病院の方針だった)、身動きを禁じられる。これが苦しい。

 寝返りを打つから、なるべく眠ってはいけないといわれている。仮にもICUなんだから本も読めないしTVも観れない、音楽も聴けない。ただひたすら七時間、待っていなければならない。

 このとき僕の想念を占めていたのは、ほとんどただひとつ。じりじりとしか動かない壁時計の針を見つめながら、

<あと○時間で煙草が吸える。あと○時間○分で煙草が吸える・・・>

 ようやくICUから出されたあと、喫煙所のソファに横たわって吸った最初の一服は、本当にうまかった。あれほど煙草をうまいと感じたことは、あれ以来ない。

 煙草を吸わないひとには、スモーカーの気持ちが解らないという。でも、少なくとも僕は、いままで煙草のおかげでなん度精神的に救われたかわからない。嫌煙家には百害あって一利なしといわれる煙草だが、吸うひとにとってはちゃんと効用もあるのだ。

 それでもやめろ、というひとには、ちょっと考えてみてほしい。煙草は吸わないけどお酒を呑むひとはいるだろう。そういうひとたちは、酔って暴れたことはないか。道端にゲロを吐いたことはないか。宿酔いで満員電車のなかに饐えたアルコールの匂いを漂わせたことはないか。

 結局、法律や宗教で禁じられているわけではないんだから、お互い仲良くやっていきましょうよぉ、といいたいわけだ。煙草は吸うし酒を呑んで馬鹿なことばかりやってる僕に、そんなこという資格はないのかもしれないが。

・・・というわけで、僕はこれからも煙草を吸い続ける。もちろんマナーには充分気をつけるつもりで。まあ将来万一法律で禁じられたら“ドラッグ”だから、祖母のことばに背くことになるわけなので、やめるかもしれない。

 あ、あと、今回の煙草値上げなんですけどね。僕は大学入学時から赤ラークを吸ってるんです。なぜかラークは値上げの対象にならなかったんですが、僕も旧国鉄債務を支払うことにはなるんでしょうか。

 しかし日記にも書いたけど、ラークを吸いはじめた頃はまさかマイルドセブンやセブンスターがラークと値段になるなんて思ってもみなかったなあ。


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ちょっと手許に見つからないので正確なデータを記すことはできませんが、『太郎物語』の続編として新潮文庫に入っています。