僕は、小学校の四年間と中学の二年半、合計六年半を野球に費した。
そして得たものは、「Don't trust over 30's」と、「才能に勝る努力無し」という、ふたつの(自分内)教訓だけだった。


 今年もまた、この季節がやってくる。 全国高校野球選手権大会、通称“夏の甲子園”だ。

 毎年この時季になると、台風が直撃しようと地震が起きようと自分の出身県にまったく興味を示さない僕でも、新聞の地方欄で地方予選の結果を見るようになる。

 僕の出身校の野球部は、たしかもう三十年くらい甲子園に出場していない。 在学中に地区予選の準々決勝まで進んだとき、試合当日は応援のために全校一斉に補習が休みになってしまったくらいだ。 教師は強制だが生徒は自主参加だったので、僕はいかなかったが。

 でもまあ、そんなことはどうでもいい。 全国大会がはじまると、出身校であろうとなかろうと、やっぱり僕は、無意識に大分県の代表校を応援してしまう。

 思うに、日本全国に散らばる地方出身者のほとんどが、そうなんじゃないだろうか。 もっとも大阪のひとたちは、アルファベット二文字の高校が代表になると、「あいつら大阪の子ぉやないからなあ」とかゆってるらしいが。

 さて。 その甲子園大会が八月の中旬から下旬にかけて開催されるというのは、なにか運命的というか示唆的というか、そういうものを感じる。 まあ高校の夏休みだからというのもあるんだろうけど。

 というのも、だいたい一回戦から二回戦(つまりほとんどの高校がまだ生き残っている段階)は、ちょうどお盆の時期に重なる。

 そうすると、だ。 お盆休みで帰省したはいいが昼間なにもすることがないかたがたが、「あーヒマだ。TVでも観るか」ということで、ごろんと横になってTVの電源を入れる。

 すると、“郷土の代表”がせえしゅんの汗と涙と思い出を賭けて、暑いなかを汗だくになって戦っているではないか。 これはもう、彼らを応援するしかない。 昼間っからビールもなんだし、麦茶飲みつつピンチにチャンスに手に汗握り、一喜一憂。そして試合が終わった瞬間、

<ああ、俺は○○県人だったんだなあ>
 と感じるのだ(感じないひとも多数いるだろうが)。

 で、僕は、自分の出身県でない高校同士の試合だと、やっぱり無意識に九州や四国や中国、とにかく大分により近い県の代表を応援してしまう。 年に一度だけ、なんとはなしに盛り上がるローカリズム。

 さて、もうひとつ、この時期に忘れてはならない行事がある。 “八月十五日”だ。

 毎年この時期になると、TVでやたらと太平洋戦争を扱った映画や特別ドラマや特集が放映される。 もっとも、逆にこの時期に『1941』を流すような良識あるTV局には、いまのところお目にかかっていないが。

 まあ、別にそれが悪いといっているわけではない。 やはり忘れてはならない記憶だし、“戦争を知らない子供たち”の子供たちが選挙権をもつ時代なんだから、彼らに教科書なんかよりわかりやすいカタチでその記憶を与えてあげるのは、決して悪いことではないと思う。

 しかし、ねえ。 お盆→帰省→高校野球→終戦記念日&太平洋戦争の記憶、とわずか一週間ていどでこれだけ連打連打! されると、どうもJ.オーウェルの『1984年』に出てくる“憎悪週間”を憶い出しちゃうんだよなあ・・・(僕だけ?)。

 考えてみると、日本人ってお盆と正月の間だけ、強烈に「自分は日本人である」と意識する民族なのかもしれないなあ、と思う。 まあ、民族紛争なんかで常時内戦を繰り返して自分のアイデンティティを確立するよりは、幸せな民族なんだろうけどね(←問題発言?)。

 あと、ひとつ追記しておく。 タイトルと最後の結論が合わないんじゃないの、と思ったかたが多数いるかと思うんだけど、

 僕は、東京に住みはじめて以来、正月を実家で迎えたことは一度もない。 だから、僕にとって内なるナショナリズムを喚起させるのは、文字通り年に一度、八月中旬しかないんだよね。


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1979年、アメリカ映画。 主演ジョン ベルーシ、製作スティーブン スピルバーグ(だったと思う)。 三船敏郎が出演したことでも知られる、ハチャメチャなスラップスティック戦争映画。













































『1984年』、ジョージ オーウェル、新庄哲夫訳。
昭和四十七年二月二十五日発行、ハヤカワ文庫。

その名の通り1984年に大ブレイク(映画化もされた)して、その後まるっきり名前を聞かない作品です。

僕は最初この本を読んだとき、“新語法(New Speak)”による言論の統制という部分に非常に興味をもったのですが、コンピュータ&データベース&ネットワークが重大な意味をもつ現在、もっと評価されていい小説だと思います。

これを読むと、それら関係の仕事をやってるかたがたは怖くてからだが震えると思いますよ。













































追記。 '98年の大分県代表校はY高校に決定しました。

大分に住んでいる妹のはなしだと、この学校には大阪とか広島とか福岡とかから、
「野球うまいんだけど甲子園に出るほどじゃない」
連中が集まってきているらしいです。

なので、今年の僕は大分県代表校を応援しないかもしれません。