渋谷(中枢)篇



・・・おそらく僕は、それまで運がよかった、いや、よすぎたんだと思う。

 1996年の仕事納めは、十二月二十七日の金曜日だった。 会社は基本的に年末は挨拶廻りをやらない主義だ。 仕事が比較的暇だったせいもあって、 午前中に大掃除をしてお昼から会社で軽食をつまみつつちょっとビールを飲み、午後は後楽園でボウリング。 午後四時には解散となってしまった。

 よっし! 完璧に予定通りだ。 僕は一度家に戻り、一時間ほど仮眠をとってからシャワーを浴び、私服に着替えた。 これから”えっち納め”にゆくぞ!

 さて、考えた。 やはり最後にトラブるのはやだから、知った店にいこう。 『平成』は家から近いが、はずれが多そうだ。 『尻キチ隊』は・・・。 あまり好みでない女の子が出てきた場合 (Hちゃん以上に好みの女の子なんているわけないが)、アナルファックはちょっとキツそうな (精神的にだ) 気がする。

 ここは最大回数こなしてしかもいまのところまあはずれのない、『お元気ハウス』がよかろう。 そう思った僕は、JRに乗って渋谷に向かった。

 さて、ゲーセンで時間をつぶして、店に入ったのは午後八時五分 (いちおう遅番の女の子の最初の客を狙った)。 いつものように黒服のニイちゃんが写真を持ってやってくる。

「この子だったら、すぐにお入りになれますが・・・」

 おおっ、待たずに入れるのか! そう思って写真を観ると、あまり好みの顔だちじゃない。 しかし、これもまたなにかの縁。 それに「写真指名は信じるな」という格言もあることだし・・・。 僕は素直にKちゃん(二十歳)を指名した。 VIPコース、生フェラ生素股の六十分一万八千円。

 ノックして部屋に入る。
「こんばんわー」
といった女の子の顔を観て、思わず僕は心のなかで叫んだ。

キクチ(仮名)、おめーなんでこんなとこにいるんだよっ!>

 キクチ(仮名)は中学・高校の同級生で、高校卒業後大阪の某大学のS語学科に進学した女の子だ。 僕のいい友人でよき理解者でもあったが、個人的には欲情するタイプの貌ではなかった。

 いちおう誤解のないように書いておくと、もちろんKちゃんとキクチ(仮名)は別人だ。 客観的にみれば、Kちゃんのほうが数倍カワイイだろう。 しかし、しかしだな。

人間には、決して触れてはいけない部分があるんだっ!

 シャワーでからだを洗ってもらいながら、個室に戻ってキスをしながら、僕の頭を巡っていたのは、

<あ、キクチ(仮名)が俺のちんちん洗ってる。 あー、キクチ(仮名)とキスしちゃったあ。 ん、キクチ(仮名)が俺の乳首をなめてる・・・>

 とゆー、とんでもない考え(妄想ともいう)ばかりだった。 で、本来ならKちゃんに、
「あなたのからだを触ったりなめたりしたい」
というべきところなんだが、

<キクチ(仮名)かあ。 やっぱキクチ(仮名)だよなあ、このおっぱいといい。 脚は細いけど、この肌の白さはキクチ(仮名)だ。 うーんキクチ(仮名)のおっぱい揉んで乳首なめてもなあ・・・>

 とゆー思考(妄想)があたまのなかをぐるぐる廻るばっかりだ。 これではイカン! なにせ僕のものはKちゃんの愛撫で、ちゃんと戦闘状態に入っている。 なのに、

<うわー、俺ってばキクチ(仮名)になめられて立っちゃったよ情けねー。 俺って最低 (こういうこと考えること自体サイテーだと思うが)>

 という、第三者からみればまるっきりわけのわからない葛藤がATフィールドを揺さぶり続けている。 いまいち(どころではなかったが)、心から快楽を味わうという状況ではない。

 そこで僕は一時休戦して、Kちゃんとはなしをすることにした。 Kちゃんのアイデンティティ (と同時に彼女が決してキクチ(仮名)ではないこと) を確かめようと試みたわけだ。

 ところが、なんということだろう。 Kちゃんはその口調まで (もちろんはなしの内容はまるっきり違うし、僕はキクチ(仮名)と大分弁でしか喋ったことはないが)、 キクチ(仮名)とそっくりだった。 ちょっとハスキィな声で、ちょっとふてくされたような、ちょっと投げやりな喋りかた。 まるっきりキクチ(仮名)だ。

「ねえ、いつまでしゃべってるつもり?」

 Kちゃんの声に僕は我に帰った。 Kちゃんははやいとこお仕事をすませたいらしい (これがKちゃんのプロ意識かどうかはわからないが)。 で、息子にローションを塗りたくっての素股がはじまる。

 僕のうえになって腰を動かすKちゃんの貌を見る。 やっぱりキクチ(仮名)だ。 でも下半身は正直に、Kちゃんの剥き出しの性器に反応している。 十分とたたずに、僕はKちゃんの手のなかに放出した。

<うっ・・・。俺、キクチ(仮名)でイってしまった・・・>

 激しい自己嫌悪(Kちゃんのせいではありません)、 そして精神的疲労(重ねていいますが、これは決してKちゃんのせいではありません)。

 その後、店を出た僕がその足で新宿へ向かい、二丁目のおかまバーでしこたま酔ってカラオケをうたいまくったのは、まるっきり僕にしかわからない理由による。


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また名前が変わったらしい(未確認情報)。 どうやらガサ入れ以来、三ヶ月ごとくらいに名前を変えているようだ。 めんどうなので、いちばん気に入っている名前で呼ぶことにする。
TEL:3406−8484(これは同じ)































僕が勝手につくった格言です。 店によっては信用できるのかもしれませんが、 いままで僕は写真と実物がまるっきり同じという例にあったことがありません。