渋谷(漫才)篇



 その日は会社のGさん、Fさんと三人で飲んでいた。 十一時くらいに居酒屋を出ると、Gさん (会社では三人のなかで一番偉い)が、

「うーん、なんかえっちしたくなってきちゃったなあ」
 と爆弾発言をかました。 Gさんは妻子持ちだが、その昔“ふーぞくの帝王”と異名をとったほどのひとで、 一時期ふーぞく通いのためにサラ金に五十万の借金をつくったことがあるらしい。

 僕は実は昨日の夜おなにいしたばかりだったので帰ろうと思ったのだが、 Fさん(会社では僕より偉い)が、
「たまにはいいですねえ、いきましょう

 と爆弾返答をかました。 上役ふたりがいきたいといってるときに断れるのは、日本のサラリーマンではない。 僕は半分拉致されるような格好でタクシーに乗せられた。

 Gさんのいきつけの店にいくことになった。 とある建物の前でタクシーを降りる。 渋谷のガード下をくぐってすぐだったので、渋谷駅の近くだろうということしかわからない。 僕はふだん渋谷にはほとんど脚を向けない。

 それは十階建てのマンションだった。 ほんとうにごくふつうのマンションだ。
<まさか秘密クラブのようなものでは・・・>

 そんな僕の不安をよそに、Gさんは平気な顔をしてエレヴェイタに乗り込む。 Fさんと僕も続いた。 十階で箱から降りると、黒服を着たおじさんが、
「いらっしゃいませ、こちらへどうぞ」
 と僕らを待合室に案内した。

 そこは細長い四畳半ほどの部屋で、 ソファとガラステーブルとTVセットが置いてある。 先客がひとりいた。 僕らがソファに腰かけると、 おじさんがなん枚かのセルロイドコーティングされたカードをテーブルの上に置いた。

「本日入っているのは、この子たちです」
 女の子のポラロイド写真の下に、 スリーサイズと得意技(?)などが書かれている。 どうやら写真指名は最初から料金に含まれているらしい。

「コースのほうはどうなさいますか?」
「どんなのがあるんでしょう?」
 Gさんがぽんぽんと僕の肩を叩き、壁を指さした。 そこに料金表が貼ってあった。

 GさんとFさんが「四十五分VIPコース」を選んだので、 僕もそうする。 内心は「酔ってるし、昨日抜いたばかりだし、大丈夫かなあ」 と思っていたのだが・・・。

 で、女の子を選ぶ。 もちろん僕はGさんとFさんに先に選んでもらった (さらりいまんだなあ)。 残った三枚の写真を手にする。 さすがにろくなのが残ってなかった(←問題発言)。 しかたないのでいちばん若い(十九歳)という理由でTちゃんという子にする。

「では、会員証と、お名前を頂戴できますか?」
 おじさんのことばに、カードを出したのはGさんだけだ。 しかもカードを渡しながら、

T村です」
 と平気な顔で偽名を名乗っている。 僕とFさんは本名を名乗り、入会金として料金に1Kプラスしたお金をおじさんに渡した。

 さて、十分くらいして、最初に名前を呼ばれたのは僕だった。
「がんばれよお」というGさんとFさんの声を背中に受けて、おじさんに個室へ案内される。

「こんばんはあ」
 にっこりと微笑むTちゃんを見て、僕は写真指名ってやっぱり参考にはなってもあてにはならないと思った。

「ねえ、Tちゃんって飯島直子に似てるっていわれない?」
 服を脱ぎながら、僕はそう訊いた。
「うん、よくいわれるよ。 たまにリンドバーグのマキちゃんっていうお客さんもいるけど」

 ただしTちゃんは、からだはぽちゃっとしていて(幼児体型)、そっちは飯島直子でも渡瀬マキでもなかった(たぶん)。

 シャワー室でからだを洗ってもらう。
「きょうは、会社の帰り?」
「うん、飲んだあと先輩に無理矢理に連れてこられた」
「そう。 けっこういるのよねえ、しらふとひとりじゃ来れないひとって」

 個室に戻ると仰向けに寝かされて、Tちゃんが愛撫をはじめる。 ふと気付くとベッドの正面に大きな鏡があって、ふつうでは見られないような角度でTちゃんのはだかを見ることができる。 しかしちょっと視線が反れると鼻の下を伸ばした自分の顔が眼に入るので、実物のTちゃんを見るようにした。

 しかし、酔っぱらってるせいで、僕はTちゃん相手に冗談をかましまくってしまった。 Tちゃんもノリがいい子で、こっちがボケをかますとすかさず適切なツッコミを入れてくれる。 そのたびにふたりともげらげらと笑ってしまうので、とてもじゃないけどえっちなことをする雰囲気じゃなくなっていた。

「あー、おかしい。 あなたって芸人の才能あるんじゃないの?」
「それは、Tちゃんがちゃんとツッコミを入れてくれるからです」
「じゃあ、ふたりでコンビ組んで東京吉本からデビューしようか。 名前はどうする?」
「ダウンタウンの上をめざして“アップタウン”なんてどう?」
「そんなん、ウケるかいな!」

 で、僕のアタマをぱこん、と軽くはたく。 ずっとこんな感じだ。 だからTちゃんがどんなサーヴィスをしてくれたのか、全然憶えていない。 最後にTちゃんが僕のものにローションを塗りたくって騎乗位素股をはじめたが、 五分くらいでタイマーが鳴ってしまった。

「どうする?」
延長する!」

 なんかひどく申し訳ない気持ちになってしまったので、僕は即座にそう答えた。 なにせ、冗談ばかりいっていても目の前にぽっちゃりした飯島直子がはだかでいるんだから、息子のほうはずっと立ちっぱなしだったからだ。 これでイケなきゃTちゃんに悪い。

 三十分延長して一度シャワーを浴び直し、今度は真面目にキスからはじめる。 なにもいわないのにTちゃんは舌を入れてきた。 そのまま僕の口のなかをかき回す。 瞬時にアタマのなかが真っ白になった。すごく気持ちいい

 負けじとこっちも舌を入れて、ついでにTちゃんのおっぱいを触る。 ぽにょんとしていて、とてもやわらかい。 軽く揉むと、Tちゃんが、
「んふっ」
 と溜息ともつかない声を出す。 それが自分の口のなかに伝わってくるのもいい。

 三十分という焦りもあったのか、Tちゃんは唇を離すとすぐにフェラチオに入った。 念入りになめてくれたあと、これなら大丈夫という感じで、再びローション塗りたくって騎乗位素股。

 しかし、いかんせんこっちは酔っぱらっている。 で、考えてみると、僕はTちゃんのからだをおっぱい以外触っていない。 69もしていないので、Tちゃんの性器も見ていない。 ので、プロセス的になにかが足りない、という感が否めない。 奉仕させるのが好きな男なら、そうでもないんだろうけど。

 ので、終焉に至らないまま、無情にもタイマーが再度鳴り響いた。 もう一度延長すると帰れなくなってしまうので放出はあきらめ、 Tちゃんにそう告げる。

 シャワーを浴びて服を着ると、Tちゃんはもう一度ディープキスをしてくれて、
「ねえ、またきてね」
 と名刺を渡してくれた。 それに眼を落とした僕は、 そのときはじめて店の名前が、

『お元気ハウス』

 だということを知った。
 玄関に向かうと、さっきの黒服のおじさんが、
「お連れ様はおふたりとも、先にお帰りになりました」
 といった(現地解散ということにしてあった)。

 帰りのタクシーのなかで、なんとなく僕は、精神的には満足だった。


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レギュラーコース(ゴム付)45分14K、60分18K。
VIPコースは生フェラ生素股で、プラス1K。
他にスペシャルコースとして 120分でアナルローター使用可(30K)というのがあった(ように思う)。

店の電話番号などは載せません。 なぜかは、次回明らかになります。













































考えてみると、素股ははじめての経験だった。













































延長料金は30分10K。なんか非効率的だなあ。













































考えてみると、 ディープキスもはじめての経験だった。 これがむちゃくちゃ気持ちよかったので、 これ以後僕はディープキスが大好きになる。













































このネーミング、すごく気に入ってしまった。 とてもセンスがあると思う。
だがしかし! ・・・次回をお楽しみに。