池袋(再会)篇



 祖母の初盆と一周忌が重なったため、 お盆は五日間の夏休みプラス土日のまるまる九日間、帰省していた。 実家にいては、おなにいもできない。

 はちきれんばかりの欲望を抱えて、 とにかくHちゃんに会いたいと思った。 日曜日、J○Sの最終便で羽田に降りた僕は、 浜松町で『尻キチ隊』に電話を入れた。

「あの、きょう、Hちゃんは入ってますか?」
「えーっと・・・。 ああ、Hはきょう早番ですので、五時に上がってしまってますね」                 
 すでに時刻は22時になろうとしていた・・・。

 それから一週間後の、日曜日。 土曜の夜から泊まりがけで遊びにきていた友人を15時に中野駅まで見送った (追い払った) あと、公衆電話から『尻キチ隊』にTEL。

「あの、きょう、Hちゃんは入ってますか?」
 早番で17時までだとかいわれたら、 その脚で池袋にいくつもりだったんだけど、
「はい。えーと、五時からの出勤になっております」
 という返事が返ってきた。

「あの、予約とか、入れられるんですか?」
「ちょっとお待ちください。 えー・・・。だいじょうぶですよ、なん時におみえになられますか?」           

 さて、18時に“70分AFコース”で予約を入れた僕は、 いったん部屋に戻ってシャワーを浴びてコロンをつけ、 新しいTシャツとジーンズを身につけて、池袋へ向かった。 五分前に入店して、ちゃんと時間通りに部屋に通される。

「あー、久しぶりい」
 僕の顔を見た瞬間、Hちゃんはそういって微笑いかけてきた。
「あれ、この顔憶えてた?」
「うん、記憶力はあんまりよくないんだけど、 ひとの顔憶えるのは得意なの。 二週間ぶりだっけ?」
「ちょうど三週間だよ、まえにきてから」

 服を脱いで、シャワー室に入る。 明るい場所でHちゃんの顔を見て、 あーやっぱかわいいなあ、と思う。
「どしたの?」
「いやあ、相変わらずかわいいなあと思って、みとれてしまった」
「相変わらず、口がうまいんだからあ」
 Hちゃんはにこっと笑う。あ、そんなことまで憶えてくれてたんだ。 そう思うと、ちょっと嬉しい。

 前回と同じ手順で、 シャワーを浴びながら生尺してもらったあと部屋に戻って愛撫を受ける。 きょうのHちゃんは妙にしつこく僕の両乳首を攻めてくる。 なめたり、転がしたり、おや指とひとさし指でつまんでくりくりしたり。 こないだの仕返し?

 攻守交代して、今度は僕がHちゃんを愛撫する番だ。 ずっとHちゃんの綺麗な性器を思い描いていたので、 おっぱいは軽くすませてクンニリングスを中心にする。 とにかくテクニックといえるほどのものでもないけど、 誠心誠意性器とクリトリスを愛撫した。

 ただ、Hちゃんの反応は前回に比べるといまいちだったように思う。 上半身をねちこく攻められるのが好きなのかもしれないし、 下半身はまだ未開発な部分があるのかもしれない。 アヌスにちょっと舌を入れてみた。 性器よりももっと、Hちゃんの味を感じる。
「お尻って、どんな感じ?」
「んー、まだ慣れてないからかなあ。 なんか、へんな感じ」

「じゃあ、そろそろ・・・」
 どちらからともなく、そんなことばが漏れる。
「あのさ、いちばん楽な体位って、なに?」
「やっぱ、正常位かな。あれ、女の子はいちばん楽でしょ」
 Hちゃんの答えは、僕にとっても好都合だった。 前回バックでしたために、味気ない想いをしたからだ。

 Hちゃんの脚を抱え、位置決めをして、ゆっくりと腰を沈める。 かすかに眉を歪めたHちゃんの貌に、ものすごく満足感を感じる。 やっぱりかわいい女の子となら、顔を見ながらするのがいい。 おっぱいや乳首や首筋に舌を這わせられるのもいい。

 少しずつ、動きをはやく、深くする。 Hちゃんは僕の動きに合わせて、少しずつ表情の歪みを深くし、息が荒くなってゆく (たとえそれが演技だとしても、 それを見るのは楽しい)。

 二十分くらい、抽送を続けただろうか。 徐々に、快楽(精神と肉体両面での)が高まってくる。 もう少し、もう少しだ。 僕はもう、前後運動だけに神経を集中していた。 もう少しで、Hちゃんのなかに・・・。

 ・・・が。

「もうダメえ!」                  

 Hちゃんが不意にそう叫んで、僕の胸を両手で押した。 というより、突き飛ばしたというほうが近い。 僕はびっくりして、Hちゃんからからだを離した。
                       
「ごめんね・・・」
 荒い息のなかで、うつむき加減のHちゃんがぽつんという。 僕はなにがなんだかわからずに、呆然としていた。 いったいなにが起こったというんだろう?

「さっき、もうすこしだった?」
 呼吸の収まりかけたHちゃんが僕の顔を覗き込む。 頷くと、僕のものを右手で擦りはじめた。 どうやらもう、お尻には入れさせてもらえないみたいだった。 五分ほどで、僕はHちゃんの手 (正確には被せられていたゴム)のなかに、射精した。

「ごめんね、アナルでイけなくて」
 シャワー室で僕のからだを洗いながら、Hちゃんがいった。 なんか、Hちゃんにはあやまられてばかりのような気がする。

「いいんだ。 この前は出せなかったけど、きょうはちゃんと最後までいったし。 この次はきっと、Hちゃんのお尻のなかでイけるよ」
 するとHちゃんはいたずらっぽく微笑って、いった。

「それで、おしまい?」

 部屋に戻って服を着ている僕に、Hちゃんが訊いてきた。
「ねえ、アナルって、やっぱり前よりも気持ちいいの?」
 僕は答えた。
あなただから、いいんだよ」
「もおー、ほんとに口がうまいんだからあ」
 Hちゃんは微笑って、ひとさし指で僕の唇を軽くはじいた。

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 店を出た僕は、Hちゃんの「もうダメえ!」っていうのはどういう意味だったんだろうと、考えていた。

1.Hちゃんはお尻で膣とはちがう快楽を感じてしまって、 ほんとうにイっちゃいそうになり、それが怖くなってしまった。

2.HちゃんはまだAFに慣れてなくて、痛くて我慢できなくなった。

 どっちにも思えたし、どっちでもないようにも思えた。



番外編−Hちゃんのこと−


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池袋東口徒歩約10分。TEL;03-5992-4477(当時)













































開店の10時から17時までが早番、17時から閉店の24時までが遅番、 ということらしい。













































予約に必要なのは、自分の名前と会員番号 (入会時に会員証をもらうが、それに書いてある) だった。 また、指名料として2Kを払う。













































これは女の子によって違うみたいだ。
力が抜けて入りやすいから側位がいいという子もいる。 痛いときに逃げやすいからとか、 深く突いてもらえるからバックがいいという子もいる。

してみると、やっぱりHちゃんはまだAFに不慣れで、 自分がもっとも楽な体位を、 前でするのと同じ感覚で考えてたんじゃないかと思う。




























































番外篇−Hちゃんのこと−



 それ以来、僕は『尻キチ隊』に脚を向けていない。 怖くなってしまったからだ。 Hちゃんを本気で好きになってしまいそうで。 いや、もうすでに、好きになってしまってたのかもしれない。

『尻キチ隊』にいけば、Hちゃんを指名してしまうだろう。 逆に、Hちゃんがもうそこにいなかったとしたら・・・。 Hちゃんは、どうもAFに向いてなかったんじゃないかという気がする。 もしかしたら、僕が会った次の日に、やめてしまったかもしれない。

 どっちにしても、出口がないと思った。

 本編では触れなかったが、終わってシャワーを浴びたあと、 服を着ているときに、彼女とこんな会話を交わした。

「ねえ、お酒とかよく飲む?」
「うん、たまに新宿二丁目にいったりする」
「ほんと? 私もよく二丁目で飲むんだあ。 偶然ばったり会っちゃったらどうしよう?」

 僕は一瞬間をおいて、答えた。
「・・・逃げる」
「えーっ、なんでえ?」

 だってどうしろっていうんだ。 “H”って名前が本名かどうかさえ、僕は知らない。 Hちゃんだって、僕の名前を知らないのに。 代理店に勤めてて中野区に住んでるってことは、 世間ばなしのなかで喋ったけど。

「ねえ、なんで逃げるの?」
 Hちゃんは無邪気に、しかし執拗に訊いてくる。
「・・・じゃあ、お酒おごってあげるよ。 俺がボトルキープしてる店でよければ、だけど」
「ほんと? ぜったいだよ」

 だから僕は、いわばそれに賭けてみたんだ。 Hちゃんとは、街のなかで、もう一度出会うところからはじめたいと思った。 もし出会えなければ・・・。 それはつまり、縁がなかったんだろう、と。

 たぶん、社交辞令を抜きにしても、 僕はHちゃんにとって、嫌な客じゃなかっただろうと思う。 でもそれを好意だと受け取るほど、 僕は自信家でもないし、それをいい出す勇気も、 そのときはなかった。 ただ、それだけのことだ。

 そして、Hちゃんにも、いまに至るまで、再会できていない。


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